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身代わりの私 / 私の変わり身
2024年
ナイロンストッキング、糸、手芸わた
H95×W45×D60cm

変わり身(metamorphosis )と身代わり(sacrifice)を主題とした人形である。
人間の等身ほどのサイズがあり、制作者自身が装着することのできる形状をとっている。
これは「伯母」の身体を模した着ぐるみである。
重要なモチーフとして、女性親族、ひいては血縁や経血へと連なる〈母なるもの〉、女というアブジェクシオンを扱っている。
成熟して母となりえた性を持ち、病を得て、老いていこうとする醜悪な肉体。
この作品は、おぞましい肉を自発的に纏うことによって成熟恐怖から解放されようという企てである。
古くから人形は、人間の罪や穢れを引き受ける代理的存在としての側面を持つ。
作者にとっても人形は身代わりであった。
制作の作業は、受難を肉体から引き剥がし、別の体に転送、転換、隔離するための攻防だった。
他方、身代わりという語は、血縁内での継承の場においても見出される。
特定の人物の死去後、不在を埋めるかのように役割が繰り上げられて、一族の中での関係性が再現されることがある。
遺伝を含めて、ある意味での資質や資産は、災厄と紙一重のものとして引き継がれていく。
代替わりが起こるとき、身代わりの現象もまた共にあると言えよう。
痛みの体験は「家」の深部で再生産され続けている。
代理や代償という性質を、人形と人間に共通の事象として再発見したとき、跳ね返ってくる問いがある。
「私」から切り離された痛みを呼び戻し、あらためて一身に受ける必要があるのではないか。
作者自身が人形の役を再演し、身代わりの身代わりとなる。迂回の手続きを経て、ようやく魂は本来の身体に納められる。
それは個人にとっての恢復のみならず、世代間の鎮魂へと繋がっていくようにも思われる。






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